多摩けいざい

特集 多摩のうごきを知る

高尾山観光の現在と未来

2021年7月30日

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 2007年にミシュラン三つ星を獲得した高尾山が、昨年、東京都で初めての日本遺産に認定された。ピーク時の年間登山者は約300万人ともいわれた高尾山だが、新型コロナウイルスの流行によって、現在は地域全体が非常に大きな打撃を受けている。そのような状況の中でも観光地として発展し続けるため、それぞれの立場から高尾山を支える各所に、現在の取組みや今後の展望について話を聞いた。

※今回取材させていただいた方々の個別のインタビュー内容は、以下よりご覧ください。

(インタビュー日順)

発展とともに受け継がれてきた自然環境


 高尾山は今から1,200年以上も前に開山したと伝えられる髙尾山薬王院とともに発展を続けてきた。中腹には薬王院のほか、さる園・野草園、飲食店や土産物店が軒を連ね、麓には京王線高尾山口駅から続く商店街や温泉、高尾の自然を学べる高尾599ミュージアムなど、幅広い年齢層が楽しむことのできる観光スポットも充実している。

 高尾山の大きな特徴は、都心からのアクセスの良さと、緑豊かな自然である。戦国時代には八王子城城主・北条氏照が竹木伐採を禁止し高尾山の環境を守り、江戸時代に入ってからは山林保護や植林が行われた。現在の高尾山では四季折々の植物や多様な生き物に出会うことができる。中でも昆虫は数千もの種が生息しており、箕面山みのおやま(大阪府)、貴船山きぶねやま(京都府)と並んで昆虫の日本三大生息地と呼ばれているという。

 また、高尾山は「ゴミ持ち帰り運動」発祥の地としても知られ、観光地におけるゴミ問題に早くから取り組んでいる。1960年代に観光客の増加とともにゴミ問題が深刻化し、薬王院やケーブルカーを運行する高尾登山電鉄、そして高尾山商店会の人々などが中心となり、山の清掃活動を行うとともにゴミの持ち帰り運動を始めた。長年の努力が実って高尾山はゴミの落ちていないきれいな山となり、2007年のミシュラン三つ星の獲得に際しても、その点が評価されたといわれている。

 2020年6月には「霊気満山 高尾山 ~人々の祈りが紡ぐ桑都物語~」として、東京都で初めてとなる日本遺産の認定を受けた。文化庁が認定する日本遺産は、地域の歴史的魅力や文化・伝統などの特色を地域全体のストーリーとしてパッケージ化し、活用・発信することによって地域活性化を図る目的がある。高尾山では、戦国時代に城下町が築かれ、信仰とともに山の環境が守られてきた。また、江戸時代には八王子の絹産業とも深く結びつき、桑都の興隆により高尾山への信仰もさらに広まっていったという。八王子に育まれてきた文化や自然環境が日本遺産となったのである。現在の高尾山の姿は、長きにわたり地域の人々が地道に重ねてきた努力の賜物といえるだろう。

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