多摩けいざい

特集 多摩のうごきを知る

高尾山観光の現在と未来

2021年7月30日

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新型コロナウイルスがもたらした影響


高尾登山電鉄 代表取締役社長 船江栄次氏

 新型コロナウイルスの流行以降は、都内や関東近郊からのバスツアーをはじめとした団体客が一気に減少し、麓から山頂にある計49店舗が加入する高尾山商店会では、特に土産物店の売上が激減した。飲食店についても、店舗に入らず屋外で食事を済ませる人が増えたため、客の入りは以前と比べると半分程度になっているという。また、国や都からの要請により、毎年開催しているお祭りや各種イベント・キャンペーンは中止や縮小、もしくはオンライン開催などの措置がとられている。

 ケーブルカーやリフト、高尾山中腹の飲食店や土産物店、さる園・野草園などを運営する高尾登山電鉄の代表取締役社長・船江栄次ふなええいじ氏によると、同社の経営する食堂の売上は前年度と比べて約40%の減少となった。高尾山ケーブルカーの乗降客数も、飲食部門と同様におよそ40%減少しているという。また、新型コロナウイルスの感染対策は徹底して行っている。「お客さまに安心してご乗車いただけるよう、ケーブルカーは定員を削減し、換気用のファンを新たに導入して、着発の都度車内消毒を行っています。リフトは1台おきの利用とし、消毒を徹底しています」と船江氏。

 高尾山の玄関口である京王線高尾山口駅の1日の乗降客数についても減少がみられ、京王電鉄によると2019年度には1万431人/日だったが、2020年度は約30%減の6,966人/日となっている。これらのデータから、年間登山者数についても30~40%程度減少していることが推測できる。徐々にワクチンの接種が進んでいるとはいえ、依然として新型コロナウイルスは収束の見通しが立たない。観光地や事業者にとっては先の見えない苦しい状況が続いている。

地域の魅力を伝える新たな取組み


地域の魅力を発信し、新たな楽しみ方を提案するタカオネ

 それでも、今こそ高尾山周辺地域に溢れる魅力を再発見しようと、各事業者は様々な取組みを始めている。

 高尾山のTVCMやポスター、WEBの展開や高尾山口駅に直結した京王高尾山温泉 / 極楽湯など、高尾山周辺地域の活性化に力を入れてきた京王電鉄では、2021年7月17日に高尾山口駅前に宿泊施設「タカオネ」をオープンした。宿泊を通して、日帰り登山では味わうことのできない高尾山の奥深い魅力や楽しみ方を提案する、地域の新たなアクティビティ拠点となる。同社では、個人や家族連れでの利用はもちろんのこと、企業や大学のサークルなど様々な集まりでの利用を想定している。また、宿泊客でなくても気軽に立ち寄ることができる場とすることで、他の観光施設などへの誘客につなげる狙いもある。コロナ禍での開業準備について、同社の開発事業本部開発企画部の十河信介じゅうかわのぶすけ企画担当課長に尋ねると、「大きなイベントはできませんでしたが、地域の方々とつながりを作りながらSNSで発信するなど、地道な活動を重ねてPRをしました。コロナ禍だからこそのやり方でしたが、シェアサイクルで高尾地区を周遊したり、川遊びをしたりといった登山以外の高尾山の楽しみ方を地元の人に教えてもらい、結果として、この地域の魅力を改めて発見することができました」と、困難な状況の中にも新たな収穫があったことを教えてくれた。

大本山髙尾山薬王院 法務課長 上村公昭氏

 また昨年の夏には、高尾山口観光案内所を運営する八王子観光コンベンション協会と高尾山商店会が主となり夏の閑散期対策として「夏の高尾山“清涼”体感めぐり」を企画した。新型コロナウイルス感染拡大防止のガイドラインを定め、涼風そばキャンペーン、江戸風鈴の設置、薬王院のライトアップを行い、訪れた観光客は夏の高尾山を満喫したという。毎年11月に開催される「高尾山もみじまつり」では、新たな取組みとしてYouTubeで「日本遺産認定記念事業 デジタル版 高尾山もみじまつり」が公開された。

 さらに薬王院でも、毎年7月に開催している写経大会において、昨年から「在宅写経」を導入している。同院法務部法務課課長であり僧侶でもある上村公昭かみむらこうしょう氏によると、自宅にいながら参加が叶う在宅写経は好評を博しているそうで、「様々な事情で山上に来ることが難しい方もいるので、このような方法は一つの選択肢として今後も必要かもしれません」と新たなニーズを捉えていた。

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