多摩けいざい

特集 多摩のうごきを知る

海外市場を拓く多摩地域の中小企業

2026年4月27日

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国内市場の成熟や人口減少が進むなか、中小企業にとって海外市場は特別な存在ではなくなりつつある。一方、海外展開には現地市場の理解やパートナー選定、リスク管理など、入念な準備と継続的な対応が不可欠であり、すべての企業にとって容易な選択ではない。本特集では、国内で磨いた技術や製品を海外へ送り出す「輸出」、海外で生まれた商品や資源を日本市場に取り込む「輸入」、そして現地に拠点を構え市場そのものに入り込む「海外進出」の3つの切り口から、各企業の取組みを紹介する。各企業はどのように海外市場と向き合い、新たな一歩を踏み出してきたのだろうか。

唯一無二の酵母を世界へ/有限会社あこ天然酵母


 最初に紹介する有限会社あこ天然酵母は、パン生地を発酵させるために必要なパン酵母「あこ天然培養酵母」の製造を主業としている。社員数は11人で、八王子市の本社兼工房では、酵母の製造に加えてパンの製造や卸売・小売も行っている。代表取締役社長の近藤泰弘こんどうやすひろ氏によると、あこ天然培養酵母を使って焼いたパンは、シンプルでくせがなく毎日食べても飽きない味わいが自慢だ。

100%穀物と水だけで培養しているあこ天然培養酵母

 同社ではこの「あこ天然培養酵母」を台湾、中国、シンガポールなどへ輸出している。台湾では現地ベーカリー関係者を集めて、天然酵母の扱い方や製法を直接指導し、同製品の良さを最大限活かしたパンが作れるよう力を尽くしてきた。こうして台湾のベーカリーへと伝わった同社の天然酵母は現地での評判も良く、取引は10年以上継続しており、現在は商社を通じて安定した輸出体制が整っている。実績ができたことで周囲からの認識が変わり、他社や他国との取引にもポジティブな影響が生まれているという。

 輸出業務を担当しているのは専務取締役の近藤直子こんどうなおこ氏だ。台湾への輸出のきっかけは、現地ベーカリーからの依頼だった。人的余裕やノウハウがない状況の中、当初は断るつもりだったが、留学経験を持つ近藤専務は「チャンスを逃すのはもったいない」と自ら担当を買って出た。

有限会社あこ天然酵母の近藤社長(左)と近藤専務(右)

 輸出を進めるにあたっては、公的支援機関のサービスを活用した。法的手続きや書類関係など実務面はもちろん、輸出という未知の領域に飛び込んだ近藤専務の精神的なサポーターとしての役割も大きかった。近藤専務は、「多くの方の支援があったからこそ輸出が実現できた。輸出を検討する際には、公的支援機関のサポートを最大限活用してほしい」と話す。

 現在は、各国の取引先とは直接連絡を取り合いやり取りし、プライベートな話もする友人のような付き合いとなっている。信頼関係が築かれた現地パートナーの存在があるからこそ、日本とはあらゆることが異なる海外市場でも安心してビジネスができるとともに、さまざまな困難にも立ち向かっていくことができている。「海外の方とはダイレクトに日々コンタクトを取って関係を深めていくことが、スムーズな取引につながることが多いと感じている」と近藤専務。

 直近ではイギリスのベーカリーとも交渉を行っており、欧米諸国への進出も視野に入れている。この先も日本の伝統醸造技術を駆使した唯一無二のあこ天然培養酵母と、それを使って焼いたパンの美味しさを世界に広めるため、日本国内のみならず海外でのさらなる販路拡大を目指す。

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