多摩けいざい
特集 多摩のうごきを知る
地域に根ざした新商品開発
2026年7月27日
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日々、さまざまな業界で新しい商品が生み出される一方で、多くの中小企業がアイデアの創出や販路開拓など、商品開発における課題に直面している。そんな中、地域とのつながりを活かしながら、自社ならではの切り口で積極的に商品開発に取り組んでいる企業がある。本特集では、業種も特性も異なる2社を取り上げ、商品開発に至る経緯やその背景にある思いを探る。
伝統技術の継承と新商品開発への挑戦/有限会社澤井織物工場
最初に紹介する八王子市の有限会社澤井織物工場は、創業120年となる企業であり、東京都の伝統工芸品にも指定された「多摩織」の技術が継承されている。古くから八王子や周辺地域には多くの機屋が点在し、さまざまな織物が作られていた。その中でも御召織、紬織、風通織、変り綴、綟り織、の5種を「多摩織」という。
桑の葉から染めた糸が1200本セットされている手織り機
伝統工芸士であり4代目当主である代表取締役の澤井伸氏は、戦前に作られた裂本集という織物の見本を集めた本を参考に、5種の技法を応用しながら織物を製作している。初代は養蚕から始まり、熱心な研究により新しい織物を生み出してきたという。その後、戦争や機械化など、時代を経て澤井氏の代となり、伝統工芸を支えてきた。
現在は、国内外のさまざまなアパレル企業から寄せられる依頼をメインとしながら、伝統工芸品である多摩織を、現代のライフスタイルに合わせて再解釈し、オリジナル商品として展開している。例えば、変り綴の技法を活かしたブランケットやクッションカバーなど、季節を問わず暮らしに馴染むアイテムが人気だ。
御召織の技法を用い、6色の糸によって織られたストール
また、地域と連携した商品開発にも取り組んでおり、そのひとつが同じ八王子の企業とタッグを組んだ「八王子デニム」だ。きっかけは連携した会社の社長からの相談だった。澤井氏は今までにデニムを織ったことはなかったが、八王子の技術や伝統文化を守りたいという趣旨に賛同し、引き受けたという。デニムの産地である岡山県で染めた糸によって織られたこのデニムは、1950~1960年代に流行った「あえて野暮ったい」風合いの濃紺色の生地で、着用するうちに比較的短い時間で味のある生地へと変化を楽しむことができる。
この生地はシルクを織るシャトル織機で作られており、通常のデニムよりも糸の密度が甘く、柔らかく肌馴染みが良いのが特徴だ。本来、シルクを織る機械のため、硬いデニム生地を織るのは一苦労であり、生産効率は良いとは言えないという。だが澤井氏は、このデニム製作の背景やこだわりも含めて、八王子デニムを気に入った方に手に取ってほしいと、思いを込めて丁寧に織っている。現在はパンツやジャケットとして販売が進められている。
「地域資源の活用など地域と協働することで、その土地の技術や産業を残していくことができる」と澤井氏は話す。しかし最近は地域単位というよりも、日本全体で考えないと難しくなっているという。技術者の高齢化や担い手の減少により、かつてのような産地の機能がなくなっているのが現状だ。澤井氏はこの先、次の担い手を育てるとともに、地域の中で新たに起業する人たちと連携し、新しいものを生み出すことによって伝統を残していきたいと考えている。
多摩織の技術が称えられ名誉都民賞を受賞した澤井社長
澤井氏は新商品を開発する時、「オリジナル性を突き詰め、作り続けていく」ことを大切にしている。例えば、無駄がない資源の使い方という考えから、破棄する野菜や桑の葉を染料に用いて生地を織るなど、独自の商品を生み出している。大量生産を目標とするのではなく、いかに自分だけの商品を生み出し続けるかを重んじている。
これまで様々な企業からの依頼を、基本的に断らず全て受けてきた澤井氏。時には家族や社員から反対されることもあったが、“やってみないとわからない”という好奇心を持って、未経験の領域にも取り組み続けてきた。
「この先も100年存続できる会社にしていきたい」と澤井氏は話す。ただ存続させるだけではなく、いかにオリジナルなものを作り、後世に残していくか。伝統工芸の担い手として、これからも伝統技術の継承と商品開発への挑戦は続いていく。