多摩けいざい
特集 多摩のうごきを知る
新たな 一歩で動かす事業と地域
2025年7月25日
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おしぼりの価値向上と国内外への広まりを目指して
/FSX株式会社
続いて紹介する国立市のFSX株式会社は、「おしぼり」を軸に数々の事業を展開してきた会社だ。当初は飲食店向けの布おしぼりレンタルが中心であったが、現在では使い切りおしぼりや関連商品の開発、衛生技術の研究、ECサイトでの小売販売など、多様な分野へと事業を広げている。代表取締役社長を務める藤波克之氏は、事業を発展させるとともに、地域へ貢献したいという思いから、多摩地域でのさまざまな活動や支援にも積極的だ。同社の根幹にあるのは、おしぼりへの誇りと情熱で、日本の文化ともいえるおしぼりを、国内から海外へと広めていくことを目指している。
FSX株式会社 代表取締役社長 藤波 克之氏
現在開催中の大阪・関西万博では、各国の賓客に提供されるおしぼりのサプライヤーに選ばれ、世界中から集まる賓客のおもてなしに花を添えている。使い切りおしぼりの「アロマプレミアム」もそのうちの一つだ。ラベンダーやペパーミントなどで8種類の香りづけをした化粧品基準のおしぼりで、厚手で上質な使い心地を持つ。
看板商品となった使い切りおしぼり「アロマプレミアム」
開発のきっかけは、藤波氏が抱いていた、単価が安く注目が集まりにくいおしぼりの価値を上げたいとの強い思いだ。“香り”に着目し、ベンチャー企業と連携して商品化を進めたアロマプレミアムは、コロナ禍での衛生観念への高まりも追い風となって人気を集めた。今では飲食店やホテルなどで広く使用され、良質なおもてなしを支える役割を担っている。
他にも、おしぼり専用の冷温庫「REION」や、冷温庫に入れることで布おしぼりに香り付けをするアロマ芳香剤「LARME」など、多くのヒット商品を持つ。さらに同社では、おしぼりから派生する抗ウイルス・抗菌の衛生の技術「VB」を応用した化粧品の開発も進めている。同社の研究開発力は、特許取得や経済産業省からの表彰など、公的にも高く評価されている。
こうしたさまざまな事業は、すべて同社のブランディングへとつながっている。2017年には、創業50周年を契機として社名変更を行い、会社のロゴも一新。時代に合わせ洗練された商品のデザインやイメージとの融合を図り、戦略的にブランディングを進めてきた。社内に設置した「ブランド統括室」という部署を中心に、統一した価値観を社内外に示すことで、取引先や消費者に自社の存在感をアピールし、おしぼりの価値向上を目指してきた。
現在力を入れているのが、今年7月に山梨県の富士河口湖町にオープンした飲食店「Expression Kawaguchiko」の運営だ。富士河口湖町にはグループ企業が拠点を構えている。藤波氏や社員にとっても縁が深いこの地で、同社の商品や世界観を一般消費者にダイレクトに届けたいと考え、飲食店という形を取ることに決めたという。自社製品のショールームや情報発信を行う場としての機能を併せ持つ店舗は、地元の人や観光客などさまざまな人が訪れる、地域活性化に貢献できるような場所を目指している。
「Expression Kawaguchiko」の外観(開業前)
同社の事業は単なる多角化に留まらない。あらゆる活動に「おしぼり」という本業の軸が通っており、そこから派生する価値を創造し続けている。藤波氏は、「情熱を持って会社を発展させるため多くのことに挑戦してきましたが、まだまだやりたいことも、やれることもたくさんあります。おしぼりという商材には無限の可能性があると思っているので、この先も軸は絶対にぶれることはない」と話す。今後は、VB技術を応用したコスメ開発や、新しい生産拠点の構築、アメリカでのECサイトの開設など、次なるステージへと歩みを進めていく。
工場ではさまざまな種類・用途のおしぼりを製造している
事業と地域を共に発展させていく
今回紹介した2社の取組みは、それぞれの主力事業にしっかりと根差しながらも、それを起点とした新事業への挑戦を通じて、自社の発展や周辺地域の活性化につながっている。従来のやり方では事業を発展させていくことが難しい時代だからこそ、自社の強みを活かした新しい取組みには、大きな可能性を感じることができる。これからも、前向きに挑戦を続ける企業が地域に増えることで、地域のさらなる活性化にもつながっていくのではないだろうか。
株式会社武相ブリュワリー
東京都町田市原町田6-9-8 4F
FSX株式会社
東京都国立市泉1-12-3