多摩けいざい
特集 多摩のうごきを知る
新たな一歩で動かす事業と地域
株式会社武相ブリュワリー/FSX株式会社
2025年7月25日
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近年、社会情勢の変化や消費者のニーズの多様化により、さまざまな業界でこれまでのやり方では会社を成長させることが難しくなりつつある。そこで、販路拡大など既存の方法に留まらず、異業種への参入による新市場の開拓や、下請けではない自社製品の開発、さらには他社との協働で新事業を生み出すなど、これまでにない挑戦をする企業も現れている。本特集では、自社の主力事業を軸に据えながらも、従来とは違った切り口で価値を創出し、事業の発展を実現しているケースを紹介する。これまで培ってきた知識やノウハウに多彩なアイデアを掛け合わせた2社の取組みは、自社の事業や周辺地域に好影響をもたらしている。
町田を盛り上げるために市内の飲食店が一致団結
/株式会社武相ブリュワリー
最初に紹介する町田市の株式会社武相ブリュワリーは、市内飲食店や酒屋を中心とする10社が共同で設立したクラフトビールの醸造所だ。2024年12月に併設のビアバー「武相ブリュワリー町田駅前店」とともに、小田急線の町田駅前にオープンした。飲食のプロが連携し一つの事業として店舗を立ち上げるという珍しい試みで、地域の注目を集めている。ビールには町田産のホップや大麦を使用し、農業者との農商連携も行う。代表取締役を務めるのは和牛専門店「闘牛門」などを経営する飯間圭吾氏だ。
開放的な店構えの「武相ブリュワリー町田駅前店」
きっかけは、多くの飲食店が厳しい状況に置かれたコロナ禍での市内飲食業者の集いであった。競合でもある経営者同士が、まちに活気を取り戻すために自分たちにできることを模索し、地域の中で顧客を奪い合うのではなく、一致団結して市外からもより多くの人を呼べるようなこれまでにないコンテンツを生み出そうと計画が始動した。同社のHPには、発起人となった10社のほか、地域につながりを生み出す試みに共鳴した58店舗の地元飲食店が賛同店として名を連ねている。町田全体を盛り上げるため、市外からも訪れやすい駅前に醸造所と店舗をオープンし、バーではクラフトビールとともにオリジナルフードを開発することにした。
同じ商圏内での同業者らによる“共同ブリュワリー”は他に類を見ない。同社ではそれぞれの経営者の強みを活かし、酒造免許の取得は酒屋を営むメンバーが先導し、ドリンク、フード、広告宣伝などのチームに分かれて立ち上げを進行してきた。クラフトビールのブランド名「カワセミブリュー」は、公募により選ばれたもので、市の鳥として認定されたカワセミの名前が使われている。地域との連携も活発で、ビールの瓶のラベルを市内にある大学の学生がデザインしたり、地域のイベントやお祭りに出店したりしている。今後は市内のスポーツチームとのコラボにも前向きだ。
発起人となった経営者たちは各々の事業の経営で多忙ながらも、2週間に1回は役員会を開催し、店舗の運営について目線を合わせながら進めている。それぞれが異なる価値観や経営論を持っているため、意見がぶつかることもあるというが、その都度話し合いをしてより良い方向を目指してきた。また、「経営セミナーなどで学ぶこともできるが、ともに事業を動かすという貴重な経験が何よりも勉強になっている」との飯間氏の言葉通り、実践的な交流が経営者たちの視野とスキルを広げている。経営者たちにとって武相ブリュワリーでの学びは、自社のさらなるレベルアップにもつながっているようだ。
「市内の人はもちろん、市外から来た人にとっても最初に訪れる飲食店として、乾杯の1杯を当店で飲んでから、違う店に移動するなどして町田を楽しんでほしい」と飯間氏。将来的には、町田市内の飲食店で定番のビールとして認知されることを目指し、醸造量の拡大を見据えた大規模な醸造拠点の立ち上げも視野に入れている。共同経営によるクラフトビール醸造所と飲食店の運営という経営者たちの一念発起のプロジェクトが、地域により一層の魅力とにぎわいを生み出している。
自慢のクラフトビールとフードを楽しむことができる