多摩けいざい

特集 多摩のうごきを知る

連携から生まれる中小企業のイノベーション

2024年4月25日

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株式会社コスモテック
代表取締役社長 高見澤友伸氏

 代表取締役社長の高見澤友伸たかみざわとものぶ氏は、事業を多角化するために、自ら新製品の開発に乗り出した。しかし、当時BtoBビジネスが中心であった同社では、自社の技術をビジネスに結び付けるアイデアや、マーケティングのノウハウを十分に持っていなかったため、単独での製品開発には課題が多かった。そうして行き着いたのが、外部機関との連携である。自社の技術で何ができるか、他社と差別化できるところはあるかなど、自社の技術を“棚卸し”した上で、新たな出会いを求めてさまざまな場所に出向いたという。

 その結果、実を結んだのが「wemo」に関する事業だ。企業間連携により互いの強みを掛け合わせて作り上げたこの商品は、他にはないユニークさが話題となりメディアに取り上げられ、同社の看板商品の一つとなった。

 「アイデアを商品化するのはメーカーの得意分野だが、一番大変なのは、我々にとって専門外のアイデアを生み出すことと商品のプロモーション。連携することで、自分たちにできないところを補ってもらう」と高見澤氏。

 他にもイノベーションの創出に数多く挑んできた同社。なぜ「wemo」が上手くいったのかについては、仮説と検証をひたすら繰り返し積み重ねてきたからに過ぎないという。市場に新たな価値をもたらすために諦めずにやり続けてきたことが実を結び、社内にも常に新しいものを追い求めることの重要性が伝わってきているのではないかと高見澤氏は感じている。

 同社の主力事業である工業用テープなどの粘着製品は法人向け、「wemo」は個人に向けた商品と位置付けられているが、開発した製品がどの顧客層に向けたものになるかは結果論であり重要視はしていないという。

 「他社と連携した商品が市場に新たな価値を生み出すものであれば、我々の立ち位置はサプライチェーンの中でも構わない。一緒にイノベーションを起こすこと自体に価値がある」と高見澤氏は話す。

震災をきっかけに自治体と連携して“消えない街灯”を開発/株式会社イズミ


株式会社イズミ
代表取締役社長 藤森政紀氏

 次に紹介する株式会社イズミは、研究開発型企業を集積させた「まちだテクノパーク」内に事業所を持つ。水処理事業を主業とし、温浴施設などへのろ過装置の設置とアフターメンテナンスのほか、環境事業として防災・減災対応照明装置も取り扱っている。

 代表取締役社長の藤森政紀ふじもりまさき氏によると、同社が環境事業に力を入れ始めたのは、2011年の東日本大震災がきっかけだ。震災後の計画停電により町田駅の駅前では広範囲が停電し真っ暗になった。市の職員が駅を出た帰宅困難者の誘導に当たったものの、灯りがない中での誘導による混乱もみられたという。そうした経緯から、まちだテクノパークにある同社と町田市との共同開発という形で、停電時に自動点灯するLED無停電照明装置「消えないまちだ君」が生まれたのである。

 この製品は、停電時には内部に搭載されているバッテリーに電源が自動的に切り替わる仕組みになっており、3日間点灯する。既設のポールをそのまま活用できるため工事の初期コストが削減でき、設置から10年間はメンテナンス不要だ。また、町田市との共同開発製品として連名での特許を取得した。こうした特長により、ブランド力を持つ大手企業に負けないように、製品の信頼性を高めていった。

「消えないまちだ君」が実際に街中に設置されている様子

 現在、小中学校の校門や駅前など市内に約450基が設置され、「まちだ君」の愛称で子どもたちにも認知が広がっている。自治体との共同開発と特許取得により製品の信頼性が高まり、町田市だけでなく多摩地域を中心に全国およそ60もの自治体に設置されるまでになった。導入自治体からの要望で、バッテリーが1週間保つようなカスタマイズにも対応している。千葉県内の自治体に設置した製品は、実際に台風による停電が起きた際に灯りをともしたという。

 藤森氏は、「『まちだ君』が活躍するのは、本来は起こってほしくない停電の時だけだが、近年は地震のほかゲリラ豪雨や雷も頻発している。いざという時に力を発揮できるようにアップデートを重ねている」と力を込める。今年1月に起きた能登半島地震によって日本全体で防災意識の高まりがみられる中で、今後は灯りにプラスアルファの機能を付けた製品の実用化だけでなく、電力や安心できる水の確保など災害時の市民の安心安全を確保する製品づくりやサービスの提供を目指していく。

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