多摩けいざい
特集 多摩のうごきを知る
連携から生まれる中小企業のイノベーション
2024年4月25日
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変わり続ける時代の中で、各企業が新たな価値の創出(イノベーション)に挑もうとしている。今注目を集めているのが、自社単独ではなく、外部機関との連携によるオープンイノベーションである。今回は、異業種企業や自治体、大学と連携し、イノベーションに取り組む中小企業に焦点を当てる。
変わりゆくイノベーション
近年の外部環境やビジネス環境の急激な変化によって、企業を取り巻く状況も大きく変化している。変化に立ち向かい、企業が成長を続けていくためには、新たな価値の創出が求められる。従来使われてきた「イノベーション」という言葉は、一般的に自社で蓄積したノウハウやリソースのみを活用し、価値を創造することを前提としており、「クローズドイノベーション」とも言われる。これまで日本ではこのクローズドイノベーションを主流とし、各企業内で発展させた高い技術力を活かした高品質の製品を数多く世に生み出してきた。
大企業だけでなく中小企業においても、企業に大幅な成長をもたらすきっかけの一つとなり得るイノベーションが重要視されている。中小企業庁の調査※1によると、イノベーションの必要性を感じている中小企業は7割を超えているにもかかわらず、実際に取り組んでいる中小企業の割合は4割程度と、必要性を感じていても取り組めていない企業は多い。また、既に取り組んでいる企業においても、経営資源が限られている状況の中では、従来の企業単独によるクローズドイノベーションを行うのは簡単ではない。
そこで、自社にない技術やノウハウなどを保有する他社や自治体、大学などの外部機関と連携し、製品開発や技術革新、研究開発に取り組む「オープンイノベーション」が注目されている。今回は、中小企業の連携から生まれる新たな価値の創出について、企業間連携、官民連携、産学連携を行う3社にインタビューを行った。
そこで今回は、DXの推進に積極的で先進的な取組みを行う多摩地域の企業2社と、その取組みのための業務を請け負う企業へのインタビューを行った。各企業の事例や取組内容を通じて、中小企業におけるDXの必要性や重要性について理解を深めていきたい。
※1 中小企業庁委託 三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社 「中小企業のイノベーションの現状に関する調査」(2023)
デザイン会社との企業間連携によるものづくり/株式会社コスモテック
まず紹介するのは、工業用の粘着シートやテープ、機能性フィルムの開発・製造・販売を行う立川市の株式会社コスモテックである。同社では創業以来培ってきた独自の技術により、半導体や自動車、ディスプレイやタッチパネルなど、様々な分野に対応する機能性フィルムを開発してきた。海外展開にも積極的で、現在はアジア圏を中心に市場を拡大している。これらの技術を活用して、肌用転写シールなど個人顧客向けの商品も多数取り扱っており、そのうちの一つである身に着けられるメモ「wemo」(ウェアラブルメモ=ウェモ)は、デザイン会社との連携により生まれたヒット商品である。
デザインと使いやすさが両立している「wemo」のバンドタイプ他社との連携は「wemo」だけでなく、他の商品でも行ってきた。きっかけは2008年のリーマンショックで大きな打撃を受けたことである。主要な取引先が続々と事業から撤退したことで売上げは激減。会社を立て直すため、海外での新たな販路の開拓と、これまで培ってきた技術の活用による事業の多角化を目指し始めた。