多摩けいざい

特集 多摩のうごきを知る

中小企業とテレワーク

2021年4月26日

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向洋電機土木株式会社


 神奈川県横浜市にある向洋電機土木は、1965年に創業し、主に大型建造物などの電気設備工事を手掛けている。従業員数は39人と中規模ながら、同社の名はテレワークを含む先進的な取組みにより、全国的に広まりつつある。その仕掛け人となったのは、広報部部長の横澤昌典氏である。前職を父親の介護のために退職した横澤氏は、同社社長の倉澤俊郎氏から会社の改革を頼まれ、今まで縁のなかった建設業界へ足を踏み入れた。

 入社して気付いたのは、現場と会社の移動に多大なコストが生じていることだった。例えば、現場作業終了後に事務作業のために会社に戻ったり、状況確認のために上司が遠方の現場まで出向いたり、などといったことが常態化していた。それを目の当たりにした横澤氏は、業務を効率化するためにテレワークを導入することにした。その他の理由として、自身の父親の介護をするために遠隔で仕事ができる環境を整備する必要があったことも、テレワークの導入を後押しした。

 横澤氏は、まず社内にサーバーを設置し、現場で事務作業が行えるように、自社システムに遠隔からアクセスできる環境を構築した。また、タブレット端末を導入し、現場と本社の間で映像や写真をリアルタイムにやり取りする仕組みを作ることで業務の効率化を図った。

向洋電機土木株式会社 広報部部長 横澤氏

 テレワーク導入の効果は絶大だった。移動時間の大幅な減少によって、テレワーク導入後4年間でガソリン使用量が約18%、平均労働時間が約10%削減された。特筆すべきは、それにより浮いたコストや時間を使って、社員の資格取得のための研修会を実施したり、会社の設備や福利厚生の充実を図ったりしたことである。建設業において、資格取得者が増えることは、工事への入札可能回数の増加を通じて売上に直結する。同社では勤務時間内に資格取得のための手厚い支援を実施し、その結果、社員の資格取得数が大幅に増加した。さらに、資格手当が付くことで給与アップが実現し、やる気や自信に繋がった。また、福利厚生を充実させたことによって、会社への帰属意識も高まった。その結果、テレワーク導入前は8億だった売上はその後10年間で16億と倍増し、利益率も倍になった。社員数も20人から39人となり、男性が多い建設業界では珍しく、3分の1以上が女性社員となっている。

 同社の取組みは様々な場所で取り上げられ、会社の知名度が上昇したことで、人材募集を行うと全国から応募が殺到するようになり、その数は毎回何百人にも及び、実際に優秀な人財が次々と入社するという好循環が生まれている。

 このように大きな成功を収めている同社であるが、最初から社員がテレワークを好意的に捉えていたわけではない。導入当初の社員の反応は、「この人は何を言っているのだ?」「今までこれで上手くいっていたのに」といった困惑の声が大きかった。そのような中で横澤氏は、まず新しい働き方に対して意欲的な社員の労働環境を優先的に改善していった。それを見た他の社員もテレワークの効果に気付き、次第にテレワークを選ぶ社員が増えていったという。

 現在ではテレワークを行う企業も増えているが、同社ではさらに一歩先を行く取組みを行っている。例えば、コロナ禍で余暇が制限される社員のために伊豆にワーケーションのための施設を購入したり、全社員のPCR検査を毎月社内で行ったりするなど、社員の福利厚生を図っている。また、取組みは社内におけるものだけに留まらず、社会貢献活動にも力を入れている。次々と先進的な取組みを進める横澤氏の元には、講演の依頼が全国から寄せられている。

 横澤氏は、「テレワークはきちんとその意義を理解し、正しい形で導入すれば、必ず利益や効果は得られます。ただし、メリットだけではなくデメリットもあり、テレワークにした方がかえって効率が悪くなることもあります。あくまでも、テレワークは多様な働き方の中の選択肢の一つであり、何を目的にするのかを明確にして取り組むことが重要です」と語る。

会社概要

向洋電機土木株式会社
代表取締役社長: 倉澤 俊郎
本社所在地: 神奈川県横浜市南区井土ヶ谷下町16-6
業種: 電気設備工事

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