多摩けいざい

特集 多摩のうごきを知る

危機に立ち向かう多摩地域の中小企業

2020年7月27日

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中小企業のスピード感


 では、インタビューを実施した5社は、コロナ禍でどのような取組みを実施したのか。まず、スピーディーな経営判断や製品開発によりコロナ禍の環境変化に対応した企業の事例を紹介する。

 「新型コロナウイルスの収束が見通せない中で、新たに設備投資をするのに不安がなかったわけではないが、未来に必要だと判断して行った」と話すのは、立川市で衛生管理の専門家としてコンサルティングなどを行うエコアの宮澤社長。同社では、消毒液の急激な需要増加に対応するため、5月に製造ラインの増設を行った。また、コロナ禍の事業環境に対応するため、1月下旬には経営戦略をすべて作り直し、社内で公表している。宮澤社長は、「衛生管理の企業として、新型コロナウイルスの感染拡大に対して、我々がやるべきことを整理し、全社員と共有した。時代の転換期にある今、社会が何を求めているかを考えなければ、足元をすくわれてしまう。これからは、大企業・中小企業を問わず、変革対応能力がなければ生き残れないと思っている。防疫のスペシャリストとして、今後も社会の中で意義のある活動を模索しながら研究開発などを進めていく」と力を込める。

エコア 代表取締役 宮澤氏

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 八王子市で半導体製造装置などを製造するアトム精密は、市内の若手経営者と設立した㈱発ジャパン※1のメンバーとともに、PCR検査を行う医師をウイルス感染から守る感染防止検査ボックスの開発・製造を行った。注目すべき点は、納品までのスピードである。同社の一瀬社長に相談があったその日にはCADで設計図を作成し、現場の医師と相談を重ねながら5日後には製品を納品した。これは、お客さまに寄り添いながら製品の設計から製造までを行う同社の技術力が生きた形だ。その後も、発ジャパンのメンバーとともに医師からの要望に応じながら現場の運用サポートを行っている。一瀬社長は、「今回、いち早く取組むことができたのは、お客さまが喜ぶことをする、困っている企業に惜しみなくサポートするという発ジャパンのコンセプトがあったからだ」という。今後の展開として、一瀬社長は、「中小企業の横のつながりを大切にするのが発ジャパンである。今後、感染防止検査ボックスの受注が増加したとしても、メンバー企業内で仕事を抱え込む気はない。新型コロナウイルスの影響で苦しんでいる中小企業に製造を委託して、仕事を振り分けることが出来れば」と更なる中小企業の連携を模索している。

アトム精密 代表取締役 一瀬氏

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 東村山市で鮮魚・活魚卸売業を経営するふぃっしゅいんてりあは、販売先の飲食店に新たな付加価値を提供するために動き出している。同社の主な販売先は、新型コロナウイルスの影響を大きく受けた居酒屋やレストランなどの飲食業界だ。飲食店への4月の売上が前年同月比で8割以上減少し、厳しい業況にある同社の林社長は、営業を再開する飲食店では、営業自粛期間中にアルバイトなどの人材が離職したため人手不足が起きると予想。今後の飲食店では、少人数で店舗を運営できる仕組みが必要と思い、人手と時間がかかる魚の仕込み業務を効率化することを考えたのである。そこで同社では、自社工場で加工した鮮魚を飲食店に配送できるよう工場の増設を決断している。さらに、BtoBとBtoCの両方で鮮魚を販売できるアプリの開発などの販路拡大も進めている。「今は、仕事が減り暗くなりがちであるが、かえって今の方が忙しいというくらい、社員は前向きに仕事をしてもらっている。この状況で止まっていることが危機であり、今を第二創業期と考えて、ビジネスモデルをチェンジしながら進めていく」と、林社長は新たな挑戦を進める。

ふぃっしゅいんてりあ 代表取締役 林氏

※ アトム精密の一瀬氏は、八王子市内の若手経営者とともに「㈱発ジャパン」を2019年に設立し、中小企業の海外支援や製品開発などの支援を行っている。詳細については、同社ホームページを参照。

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