多摩けいざい

特集 多摩のうごきを知る

外国人材活用の最前線

2020年4月27日

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 しかしこの出来事から、鈴木社長の海外進出への本気度が社員に伝わり、日本人は英語でコミュニケーションをとり、また外国人は日本語を勉強し始めるなど、少しずつ社内に良い変化が生まれ始めた。

 さらに、自社だけでなく日本全体として難民を採用するスキームがないことに気づいた鈴木社長は、難民支援協会などと協力して外国人材向けの就労支援プログラムを作成した。その内容は、基本的なビジネスマナーから日本で働くうえでの注意点などを教えたうえで、企業でのOJT研修などを実施し、企業と外国人材とのミスマッチを防ぐものである。

 この取組みが評価され、2015年には経済産業省の「ダイバーシティ経営企業100選」に選出された。経済産業省からは、「是非他の中小企業にも横展開してほしい」と言われたが、難民採用は出入国管理法運用の影響に左右されやすく、横展開するには不安定な状態であった。

海外大学とのインターンシップから海外進出へ

 そこで、同社は安定的に外国人材を採用するため、フィリピンの大学とインターンシップ契約を締結し、受け入れた学生のうち同社のビジョンとマッチした学生を採用する取組みを始めた。採用した学生には、海外企業との開発業務を担当させるなど、外国人材の能力を活用している。また、今後の横展開を意識して、親交の深い中小企業にも受け入れた学生を研修に派遣させた。受入れ先の社長は、社員が熱心に仕事を教える姿を見て、外国人材の活用を前向きに検討するようになったという。

 その後は、韓国に拠点を開設するため韓国の大学と提携するなどの取組みを進めた。その頃から、外国人材の活躍により、海外の企業や行政とのネットワークが拡大し、海外取引が増加するなど、同社の業績に明らかな変化が見え始めた。今では、冒頭で述べたとおり4か所の海外拠点と7か国語での対応により、世界中のマーケットに進出している。

 同社の外国人材の活用でもう一つ注目すべきは、企業組織に変化が生まれたことである。外国人材の活用を契機に、業務の効率化や職務に応じた給与体系の変更、定年退職の廃止など様々な社内改革が進んだ。外国人材だけでなく女性や高齢者も活躍しやすい職場となり、日本人従業員にも良い効果が生まれている。

 この取組みの背景にあるのは、今の組織風土では、日本企業は外国人材から選ばれないという危機感があったからである。鈴木社長は、「外国人は日本企業に終身雇用のイメージがあり、入社したら辞められないと思っている。日本が好きな外国人でも、転職しづらい日本企業には就職したくないと感じているのではないか」という。

グローバル化する人材に向けて


 栄鋳造所は、外国人材の活用によって海外とのネットワークが開けた。鈴木社長は、「今はSNSの普及で、言葉の壁さえなければ世界中とつながる時代になった。モノとインターネットがつながるIoTの時代と言われるが、これからはヒトとヒトとがつながる時代である」と語る。

 しかし鈴木社長は、「日本人がガラパゴス化してしまうのは、言葉の壁があるから。日本人はインターネットで世界とつながっていると思っているが、そうではない。片言の英語でも実際の会話が重要である」と危機感を募らす。そのため、今後は日本人の育成にも力を入れていく。知識や技能をもった外国人材の採用を継続しながら、日本の学生も受け入れ、若いうちから外国人材に触れさせることにより、日本人の意識を変えようとしている。

ASIA Link 代表取締役 小野氏

 これまで栄鋳造所の先進事例をみてきたが、中小企業にとって外国人材の活用は、採用コストや在留資格の手続、入社後のフォローなど日本人以上にハードルが高いのは事実である。高度外国人材を企業に紹介するASIA Linkの小野社長は、そういった課題を踏まえた上で、「外国人材の活用は、ビジネスを発展させ、さらに組織の活性化にもつながるなど良いことの方が多い。会社に貢献してもらうには、会社と外国人材、そして日本での生活の3つの将来像を示すことが重要であり、それは社長の意向を反映させやすい中小企業の方が実現しやすいはずだ。ぜひ一歩を踏み出してほしい」と語る。

 グローバル化する社会の中で、外国人材を含めた多様な人材の活用は企業の成長に不可欠となるだろう。外国人材の活用をきっかけに、多摩地域の中小企業は更なる飛躍を遂げられるはずだ。(西郷 誠)


※ 栄鋳造所の鈴木社長は、仲間の若手経営者とともに中小企業向けに外国人材の採用や海外進出などを支援する「㈱発ジャパン」を設立し、海外ネットワークやノウハウの横展開を始めている。詳細については、同社ホームページを参照。

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