多摩けいざい

たましん地域経済研究所レポート

多摩地域における都市空間構造の変化

2020年1月27日

ページ 1/2

 2000年代に入ってから既に20年が過ぎた。今回のレポートでは、この20年間を振り返り、その間に起こった様々な変化を「多摩地域」と「都心」という空間的な観点から見ていく。普段、私たちが感じている変化は僅かずつであるが、20年間の変化の蓄積をデータとして眺めると非常に大きいことに気付かされる。

都市空間構造の変化を描く3つのキーワード


 ここでは、2000年以降の多摩地域と都心の都市空間構造の変化について、①プラットフォームビジネス、②製造業、③ワーク・ライフバランスという3つのキーワードから見ていく。これらのうち、①と②は産業に関する変化、③は人々の働き方や意識の変化である。

 最初のキーワードは、「プラットフォームビジネス」だ。プラットフォームビジネスとは、他の商品やサービスが流通する基盤を提供するビジネスのことで、GoogleやAmazonなどがその代表例である。ICTイノベーションによって、より高品質かつ低コストなサービスが全国至るところで展開できるようになり、これまでローカルな市場で展開していたビジネスは、より広域にサービスを展開する企業によって、急速に市場を奪われてしまった。それまで地理的に分散していたローカルな市場は全国的あるいは国際的に統合され、「一人勝ち市場」に様変わりしたか、あるいはその収益の一部を吸収された。

 ここで着目したいのは、プラットフォームビジネスを展開する企業が空間的に都心に一極集中していることである。プラットフォームビジネスの典型は、情報通信業であるが、情報通信業の23区への一極集中は圧倒的だ。1999年から2016年までに、国内の情報通信業の従業者数は約58万人増加したが、そのうち23区の増加数は約44万人であり、増加分の76%を占めている(表1)。過去20年の日本の情報通信業の成長は、ほとんど23区で起こったと言っても過言ではない。このような集中化は、そこに新たな人材と企業を呼び寄せる形でフィードバックを伴ってますます強化される。これが近年の都心と多摩地域の都市空間構造に決定的な影響を与えている。

表1 情報通信業従業者数の変化


出所)総務省「事業所企業統計調査」、総務省「経済センサスー活動調査」

 2つ目のキーワードは、「製造業」である。多摩地域の製造業の製造品出荷額と従業者数の減少は著しい(図1)。2000年前後より、大企業、中小企業を問わず、工場の地方移転が進んだ。これまで多摩地域の安定した雇用を支えていた製造業の雇用が減少したことで、働く場としての多摩地域の役割は弱くなっている。

 製造業がなぜ重要かといえば、それが地域の外からお金を稼ぐことができる産業だからである。例えば、サービス業の市場規模は、一般に近隣の人口や所得の規模に制約を受けており、それを越えることはない。

 しかし、製造業の需要は地域を越える。そして、地域を越えて稼いだお金が中間取引や従業員への給与として支払われることで地域内に循環する。製造業のように地域外の需要を獲得する産業を経済学では「基盤産業」と呼ぶが、この基盤産業がもたらす波及効果は、地域経済の存立にとって不可欠である。製造業の雇用の減少は、多摩地域の経済を乗数的に減少させることを意味する。

図1 多摩地域製造業の製造品出荷額等・従業者数 出所)経済産業省「工業統計調査」ほか

『多摩けいざい』トップへ戻る