多摩けいざい

特集 多摩のうごきを知る

地域を豊かにするスマートシティ

2023年7月25日

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公民連携から始まった「スマートシティ東村山」


ドライブドリームストーリーの當麻氏

 もう1つは、「子ども子育てワンストップサービス事業」である。この事業では、子育て部門を中心に行政手続きのデジタル化を進めることで、市民の利便性向上と市役所の業務効率化を目指す。具体的には、今年度中に子育て世帯をターゲットにした4つの新たなサービスの導入を進めていく(図2)。まずは、デジタルに比較的馴染みのある子育て世帯からこうした取組みを進めていくことで、市役所内の業務効率化が図られ、対面による手続きを必要とする市民の対応に、より注力することも可能となる。

 ほかにも、デジタル化によって利用者の属性などさまざまなデータを蓄積することができるため、データの利活用も可能となる。より多くのデータを集めて利活用の幅を広げていくために、いずれはデジタル地域ポイント事業との連携も視野に入れている。また、この先徐々に子育て部門以外にも行政手続きのデジタル化を進めていくにあたって、地域の事業者が参加しやすいように、オープンな仕組みの構築を目指している。地域の事業者とともに、より良い東村山市を作っていくプラットフォームとしたいからだ。

 市内で事業を営む株式会社ドライブドリームストーリーの代表取締役である當麻武勇とうまたけお氏は、商工会に所属し、市が主催する数々の協議会などにも積極的に関わってきたうちの一人だ。自治体と民間事業者の関わり方について當麻氏は、「これまで一事業者として培ってきた知識や経験が、自治体の業務に活かせる部分はたくさんあります。自治体は民間のノウハウを求めており、地域の事業者たちが関わる余地は十分にあると思っています。売上面だけではなく、地域貢献に寄与できることは地元企業として大きなメリットです」と話し、地域への思いを滲ませた。當麻氏は、デジタル地域通貨事業で新たに立ち上げる法人の代表に就任する。同法人ではデジタル地域通貨事業を入口に、持続可能な地域振興に向けたさまざまな取組みを行っていくという。

 これまで公民連携で多方面にわたり協議を重ねてきた東村山市のスマートシティが、ついに動き始める。経営政策部の課長・堀口裕司ほりぐちゆうじ氏は「地域をより良いものにする多様なアイデアやサービスは、行政の力だけではなく、地域との関わりや対話の中で生まれていきます。持続可能な取組みを目指して、この先も市民や地域の事業者のみなさんと一緒にサービスを育てていきたいです」と力を込めた。自治体と事業者が、ともに地域を良くしていきたいという思いを共有しながら進めてきたこの取組みは、市にとっても前例のない思い切った挑戦となる。地域とのつながりによって紡ぎ出される「スマートシティ東村山」のこれからに注目が集まっている。

(図2)「子ども子育てワンストップサービス事業」の実現イメージ(東村山市提供)

スマートシティで多摩地域を豊かに


 スマートシティの実現は、自治体だけで成し遂げることはできない。自治体の持つ熱意は重要な足がかりとなることは確かであるものの、それだけではなく東村山市のように地域の事業者などを積極的に巻き込んで、地域が一体となって進めていくという視点を欠かすことはできない。また、スマートシティの取組みは、デジタル化すること自体が目的ではない。デジタルはあくまでも手段であり、目的は地域課題の解決や住民の暮らしやすさを向上させること、つまり暮らしを豊かにすることだ。

 今後、多摩地域の多くの自治体で人口減少が予想されている。そのような状況下において、スマートシティは限られたリソースを余すことなく活用し、地域の魅力を高めていく突破口にもなり得るだろう。多摩地域の特性や課題に応じたスマートシティに関する取組みが活発化し、地域全体がより豊かになることを期待したい。(畑山若菜/編集:野村智子)

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