多摩けいざい

特集 多摩のうごきを知る

地域を豊かにするスマートシティ

2023年7月25日

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“スマートな東京”を南大沢で実現へ


都市整備局の末元氏

 スマートシティの取組みは、東京都でも行われている。東京都が2020年に策定した「スマート東京実施戦略」では、デジタルの力を活用し、都民が質の高い生活を送ることができる「スマート東京」の実現を目指すとした。その一環として、東京都の中で5つの先行実施エリアを選定し、それぞれの地域特性を活かしたモデルを構築した。多摩地域では八王子市の南大沢エリアが、東京都立大学における学術研究と賑わいあるまちづくりが共存するエリアとして選定されている。

 同年、南大沢エリアでは、八王子市・東京都立大学・民間事業者などの産学公連携によって「南大沢スマートシティ協議会」が立ち上げられた。協議会では地域住民や事業者からのニーズ調査や、デジタル技術を活用したさまざまな実証実験を行いながら協議を重ね、地域の課題に即した実践的なまちづくりを検討してきた。

 昨年度は、地域課題に沿った複数の実証実験が行われた。そのうちの1つである電動キックボードシェアリングサービスは、丘陵地の住民の移動負担の軽減や、南大沢駅を拠点とした周遊による利用など、モビリティの視点から地域課題の解決を目指したものだ。実証実験では、南大沢駅周辺を中心に30か所程度の駐車ポートが設置された。実証実験を経て、電動キックボードシェアリングサービスは実際に運用に至り、地域の協力もあって利用実績は着実に伸びている。丘陵地に暮らす住民や、南大沢を訪れる人の新たな移動手段として、今後も利用者のさらなる増加が期待されている。

 同協議会ではこれまで東京都が事務局を務めてきたが、今年度からは株式会社多摩ニュータウン開発センターに事務局を移し、新たな運営体制でのスタートを切った。東京都都市整備局・局務担当部長の末元清すえもときよし氏は、「これからは地域が主体となって、この取組みを進めることになります。これをきっかけに、今後実証事業などを行う際には、地元の中小企業にも積極的に手を挙げてもらい、チャレンジの場として活用してほしいです」と話し、多摩地域の中小企業が持つポテンシャルに期待を寄せた。

公民連携から始まった「スマートシティ東村山」


 また、多摩地域の自治体の中で、独自にスマートシティの取組みを進めているのが東村山市だ。行政の持つリソースが限られている中で、デジタルの力によって地域の課題を効果的に解決へと導き、市民の暮らしや地域全体をより豊かにすることを目指している。先進的な取組みの背景について、地域創生部と経営政策部から話を聞いた。

 ここに至るまでには、東村山市が公民連携を積極的に進めてきた背景がある。行政と民間事業者が一体となって、地域をより良いものにしていこうと、2017年に作られたのが「公民連携地域プラットフォーム」だ。その後、市民サービスの質や満足度などの向上を目的としたアイデアを事業者から募る、民間事業者提案制度を取り入れたところ、デジタル化を推進するスマートシティの考え方に近い提案が散見された。その流れを受けて、2020年にはスマートシティに興味がある事業者やデジタル技術を持つ企業との意見交換のために「東村山市スマートシティ協議会」を設立した。そして2021年には、「東村山市におけるスマートシティの基本的な考え方」を策定し、具体的な取組みに向けて、歩みを進めてきた。

 現在は、2つの取組みの実現に向けた準備をしている。まずは、「デジタル地域ポイント事業」だ。多摩地域では初めての試みで、デジタル地域通貨とデジタル行政ポイントの2つの機能によって、地域経済の循環を促すことを目指す。デジタル地域通貨は、市内で流通する電子マネーである。デジタル行政ポイントは、行政の給付サービスなどをデジタル上で行うもので、付与されたポイントはデジタル地域通貨として使えるようにする。大手電子マネーと異なるのは、地域内での経済活動が促されることで、地域に経済価値が蓄積されることだ。

 今秋からの運用を目指しているこの事業の運営は、市が商工会とともに設立する法人が行うことになっている。デジタル地域通貨の加盟店から集まる換金手数料が法人の収益になる仕組みで、事業で得た収益は地域振興のために再投資することを考えている。地域創生部の課長・杉山健一すぎやまけんいち氏は「この仕組みによって地域の中でお金を回し、収益が出る形で地域の事業者を巻き込むことができます。地域経済への波及効果も、十分にあると感じています」と話す。

(写真左から)経営政策部の堀内氏、新井氏、谷氏、堀口氏、地域創生部の杉山氏

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