多摩けいざい

特集 多摩のうごきを知る

イノベーションに挑む多摩地域の中小企業

2020年10月26日

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イノベーション創出に挑む中小・ベンチャー企業


 アルトリストは、食品工場の製造・包装・物流ラインのエンジニアリングコンサルティングを行う企業である。現在同社では、自動化が進む食品工場の中で、未だに人手に頼っているお弁当や総菜の盛付け作業を自動化するロボットハンドの開発に取り組んでいる。食品業界でのキャリアが長い同社の橋田社長は、「社会課題である労働人口減少への対策や従業員の労働条件の改善には、単純作業を省人省力化していくことが必要である」と力を込める。

 しかし、自動化には、衛生上の問題や盛付けの美しさなど、越えなければならない課題は多い。そこで、同社では電気通信大学と共同研究を行うことにより、その課題を乗り越えようとしている。橋田社長は、「難易度が高い研究のため、大学のリソースを活用して共同研究をできるメリットは大きい。加えて、当社にはない学生の若い力や新しい発想をもらえるのはありがたい」という。今後は、更に共同研究を進めて、来年度中にはテスト機を製作し、実証実験を行う予定だ。

アルトリスト 代表取締役社長 橋田氏

会社概要

アルトリスト株式会社
代表取締役社長: 橋田 浩一
本社所在地: 東京都調布市小島町1-1-1 電気通信大学UECアライアンスセンター510
業種: 食品機械装置製造業

◆   ◆   ◆

 2017年創業の B-STORMは、電気通信大学発のベンチャー企業である。同社は、EC物流システムに対して、倉庫内のピッキング作業の高効率化を可能とするカートシステムを開発した。近年は、EC市場の拡大により取扱数量が増加したことで、人手に頼るピッキング作業の負担は増大し、人手不足と作業の効率化が課題となっていた。同社はこの課題に着目し研究開発を重ねた結果、ピッキング作業効率を2倍にすることに成功。AI技術を活用して作業員の走行距離を1/3に短縮するルート検索システムを開発した。

 同社の志村会長は、製品開発を行う上で3つキーワードがあるという。「一つ目は技術の変化を捉える。新たな技術は、皆が一斉に使い始めるので、大企業からベンチャー企業までスタートラインは一緒である。二つ目は技術を用いて既存の製品より良い製品を作る。当社は市場がないところで、製品開発はしない。三つ目は相手に印象付ける機能を製品に付ける。ものづくりのコツは、相手に感動を与えられるかである」と、志村会長は語る。

B-STORM 左:代表取締役社長 羽方氏 ・ 右:代表取締役会長 志村氏

会社概要

株式会社B-STORM
代表取締役会長: 志村 則彰・代表取締役社長: 羽方 将之
本社所在地: 東京都調布市小島町1-1-1 電気通信大学UECアライアンスセンター409
業種: 無線通信機械器具製造業

経営と技術のイノベーション


 2社のインタビューを通じて、筆者が感じたイノベーション創出へのキーワードは2つある。一つ目は、「課題の明確化」である。各社とも従来から解決できていなかった課題を的確に捉えてる。誰のどのような課題を解決するのかが明確であり、それを解決することによって得られる効果を示すことができている。二つ目は、「経営と技術の2本柱」である。ここでは紹介しきれなかったが、2社ともに経営者は経営全般を俯瞰し、そして経営者とは別に技術を支える人材がいる。アルトリストは、商社出身の橋田社長が起業し、数年後に現在の主力メンバーとなる技術者を採用し、ものづくり企業としての体制を整えた。また、B-STORMは、経営に明るい志村会長と製品開発に強みを持つ羽方社長との前職時代からのコンビで起業している。電気通信大学で多くの研究開発型企業の支援を行ってきた同大学UECアライアンスセンターの桐本副センター長は、「多くの研究開発型企業は、良い製品を作れば売れると考える傾向がある。企業の成長には経営という観点が重要であり、そこが弱いのが課題である」という。経営と技術がお互いに影響し合うことでイノベーションの創出が実現できるのであろう。

 イノベーションの創出は、非常に困難なことであるのは事実である。しかし、時代の転換期にある今、中小企業は強みであるスピードを生かし、社会や市場に対して変化を与えるチャンスである。経営者はリーダーシップを発揮し果敢に変化にチャレンジすることで、多くの企業が更なる成長を遂げられるはずだ。(西郷誠)

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