多摩けいざい

特集 多摩のうごきを知る

危機に立ち向かう多摩地域の中小企業

経営者インタビューNo.01 株式会社アースリンク

2020年7月27日

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 IT技術を活用したインサイドセールスのクラウドサービスなどを開発・販売している同社。リーマン・ショック時に大きな打撃を受けたことをきっかけに、事業ポートフォリオを再構築し、危機に強い企業となった。同社の宮下社長に、コロナ禍での業況や今後の事業展開についてお話を伺った。

代表取締役 宮下 慶太氏

貴社の概要について教えてください。

 当社は、大手企業向けの受託開発業務、システムエンジニアの派遣業務(SES)、インサイドセールスのクラウドサービス開発・販売の3つの事業を行っているIT企業です。しかし、創業時からこの3つの事業を行っていたわけではありません。リーマン・ショックが起きる前までは、受託開発業務とSESの2つの事業を行っていましたが、リーマン・ショックにより大きな打撃を受けました。そこで、次の経済危機が起きても会社が耐えられるように新たな収益の柱を育てる必要性を感じ、始めたのがインサイドセールス事業です。一社あたりの取引額が大きい大手企業向けの受託開発業務と、取引額は少ないですが業界を問わず数多くのお客さまと取引をするインサイドセールス事業を行うことで、危機に強い事業ポートフォリオを構築しました。

 具体的な業務を説明しますと、大手企業向けの受託開発業務は、主にワークフローの開発を行っています。最近の主流は、BPW(ビジネス・プロセス・ワークフロー)と呼ばれる部門横断型の申請システムです。これは大手企業の方がニーズはありますが、実際には担当者が導入したくても、社内で話がまとまらず、導入に至っていない企業が多いです。しかし、コロナ禍の社会情勢の変化により、大手企業では特に印鑑をなくす取組みが進んでいますので、今後はさらにニーズが高まると思います。

 次に、システムエンジニアの派遣業務(SES)です。例えば、金融系のシステム開発は、開発の規模が大きいため、たとえ大手企業が受注したとしても、とても1社では仕事を受けきれません。そこで、元受けとなる大手企業は、パートナー企業からシステムエンジニアを集めてプロジェクトチームを組み、システム開発を行っているのです。当社の社員がその現場に行く場合は、派遣の形態をとっています。

 最後に、インサイドセールス事業です。インサイドセールスを簡単に言うと、企業訪問をすることなく、内勤で行う営業活動のことです。具体的には、電話や、メール、Web会議システムなどの手段を組み合わせて、担当者の把握から商談の発掘、クロージングまで行います。これは、国土が広く企業訪問が難しいアメリカから始まったセールス手法で、日本の場合は人手不足に苦しむIT企業が営業活動を効率化するために取り入れました。当社では、お客さまがより効果的にインサイドセールスを行うためのクラウド型のマネジメントツールを開発し、販売しています。営業のフェーズ管理や次のアクションを起こすための業務管理、成功パターンの共有などを簡単な操作で行えるシステムとなっています。当社のシステムの特徴は、お客さまが行うインサイドセールスのゴールを「面談のアポイント」ではなく「商談の創出」と設定している点にあります。営業担当者が新規開拓のために行った通話内容や、Webアンケートの回答などをデータベース化して、商品に興味がある顧客を抽出し、成約見込みが高い顧客から契約につなげられるようにしています。当社も同じですが、企業の課題はやはり新規開拓です。企業を成長させるためには、新しいお客さまを着実に増やしていかないといけません。特に、中小企業の場合は社長の人脈だけでは限界があります。新規で営業職員を雇用するよりも低いコストで効率よく営業できるのが、インサイドセールスです。

同社の本社ロビー 経営理念の『ITで「ありがとう。」を』

4~5月の業況はいかがでしょうか。

 全体的な業績は順調に推移しています。コロナ禍の影響としては、インサイドセールス事業では、外出自粛期間中はお客さまと新規契約を結べなかったため、契約件数は減少しました。ですが、普段は外出している方が社内にいるため、お客さまとの接続率が高まり、さらにコロナ禍で非対面での営業の必要性を感じたお客さまから「インサイドセールスも重要だよね」という多くの声をいただきました。そのため、新規の商談件数は例年以上に増加しています。あとは、どう契約まで結びつけるかですね。

コロナ禍での社内の取組みを教えてください。

 コロナ禍で、当社も急きょ在宅勤務を開始しました。実は、当社では、2年半前から伊豆市にサテライトオフィスを開設して、社員を常駐させる取組みを行っていました。本社とサテライトオフィスは、お互いの状況を見られるように、常に社内の様子をスクリーンに映し出しています。このサテライトオフィスのおかげで、今回のコロナ禍の中でも、社員は在宅勤務やオンライン会議にスムーズに入っていくことができました。

 今は、テレワークのためのツールを簡単に入手できますが、表面的に真似をしただけでは様々な問題が起きてしまいます。例えば、就労環境の変化やコミュニケーション不足などが重なることにより、健康や精神面などを害する社員が出てきます。また、新入社員の企業への帰属意識も低下するでしょう。これでは、企業全体の生産性を低下させてしまいます。このようなリスクを未然に防止するため、当社では、全社員が参加するWeb会議でコミュニケーション研修を行うなど、様々なコミュニケーションを密にする取組みを実施しました。余談ですが、在宅勤務時のWeb会議等で家族の声や姿の映り込みにストレスを感じている方も多いかと思います。当社では、普段から社員の家族ともコミュニケーションを密にしていますので、在宅勤務時の社内会議に子どもが画面に映り込んでもOKです。もし子どもが画面に入り込んできた場合には、みんなの前で自己紹介させるようにしています。

 このような取組みを実施しているため、当社ではテレワークを実施しても特段問題は起きていません。早めに実践していると、いざという時に、次の課題に手を打てます。企業にとって、常に先手を打てるかが重要ですね。

今後、どのように事業を展開していく予定でしょうか。

 これからは、インサイドセールスの代行ビジネスが増加すると予想しています。先日、営業活動に特化したオンライン展示会で名刺交換した企業に「インサイドセールスを行いたいか」についてアンケートを行ったところ、約5割の企業が興味関心を示しました。しかし、多くの企業は、インサイドセールスを行うノウハウがない、電話営業をおこなえる人材がいないなどの問題を抱えています。IT技術は進化する一方で、ITを活用できない企業が出てきています。そこで当社では、中小企業のお客さま向けに、ITを活用した営業回りを一気通貫でサポートできる業務ができればと考えています。ただし、当社が単なる代行業者にならないように、ITを活用してお客さまの状況をデータベース化し、精度の高い形で次のアクションに結び付けられるように提案を行うようにします。なお、当社ではマーケティング、インサイドセールス、セールスにおける全ての活動を数値化して見えるようにしたことで、効果的にPDCAを回すことが可能となった結果、営業の商談率や成約率などの数字が上がっています。

最後に、同じ中小企業経営者に向けて、一言お願いします。

 ポストコロナ時代の到来で、ニューノーマル(新常態)になるということは、どの企業にもチャンスが生まれます。1997年に私が起業してから、ITバブル崩壊やリーマン・ショックなどの経済危機は3~4回起きました。経済危機は滅多に起きないのではなく、よく起きることです。そして、必ず経済は回復しました。もちろん、今をどう乗り切るかも重要ですが、経営者として経済が落ち込んだ今をチャンスと捉え、何を仕込むかが重要です。この状況に悲観的にならず、今がチャンスと考え、共に頑張りましょう。


(インタビュー日時: 2020年6月18日)

会社概要

株式会社アースリンク
代表取締役: 宮下 慶太
本社所在地: 東京都多摩市永山1-5 ベルブ永山5階
業種: ソフトウエア開発

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