多摩けいざい

特集 多摩のうごきを知る

多摩地域の中小企業の新たなる挑戦

2023年4月25日

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株式会社ミラック光学


ミラック光学 村松社長

 株式会社ミラック光学は、国内有数の技術力で顕微鏡などの光学機器や関連製品の開発・製造を行っている。

 「今持っている技術を磨き続けるのはもちろん、常に危機感を持って次の一手を考えている」と話すのは代表取締役の村松洋明むらまつひろあき氏。コロナ禍では事業再構築補助金を活用し、以前から新規事業として開発に取り組んできたAIと既存事業の技術を組み合わせた「ワイヤー移動式AIカメラシステム」を開発した。農業などの一次産業における活用を想定したこの製品は、AIの目となるカメラ部分に同社の光学技術を取り入れており、農作物の成熟度診断や個数のカウント、病害虫の発見などが可能だ。また、現在は養鶏場における活用を目指したプロジェクトも進めている。

 リーマン・ショックや東日本大震災など、これまで幾度もの危機を乗り越えてきた同社。村松氏の父である先代が代表だった時代には、会社が廃業寸前まで追い込まれたこともあったという。これらの経験がコロナ禍を乗り越える知恵となり、今も日々新たなアイデアや製品を生み出し続ける原動力になっている。「何か新しいものを作り続けていかないと、中小企業はどこかで先細りになってしまう」と村松氏は語る。

 同社では、製品や技術を守るために特許権や意匠権などの知的財産権の取得にもこだわってきた。「知的財産権は会社を守るだけでなく、製品の独自性をアピールする武器にもなる」と村松氏。東京以外にも拠点を開設し、今後も工業向け製品のみに留まらず、農業をはじめとした一次産業など、さまざまな分野で活用できる製品の開発を目指して、さらなる挑戦を続けていく。


※ 新分野展開、業態転換、事業・業種転換、事業再編又はこれらの取組みを通じた規模の拡大など、思い切った事業再構築に意欲を有する中小企業等の挑戦を支援する日本政府の制度

SIシナジーテクノロジー株式会社


 SIシナジーテクノロジー株式会社は、代表取締役社長の志村秀幸しむらひでゆき氏が立ち上げた情報通信機器などの製造を行う企業だ。人々の暮らしを支える社会インフラ系システム機器の受託開発のほか、自社製品の開発にも積極的で、現在力を入れているのはAIの開発である。音によるディープラーニングを導入しているのが特徴で、東京農工大学やベトナムのハノイ工科大学などとの産学連携を通じて常に最先端の技術を追求している。産学連携プロジェクトの1つでは、熟練の職人と同等レベルでのAI開発に成功。2020年に国際特許を出願し、日本国内への移行手続きも完了した。これらの技術を活用し、工作機械のドリル刃や工場の排水処理に使われるフィルターの故障予測を行うなど、今後もさまざまな分野での応用を目指している。

 コロナ禍では半導体不足の影響を受けて部品が手に入らず、納品ができない、といった状態が続いていたものの、AI開発などの新たな事業に向けた歩みを止めることはなかった。志村氏は「イノベーションが進む世の中の流れを見極めて、いつでもその流れに対応できるように色々な駒を用意しておきたい。コロナ禍に限らず環境は常に変化しており、この変化に対応していかないと生き残るのは難しいと思っている。当社ではこの先も社員全員で変化に立ち向かい、時代とともに進化し続けていきたい」と語る。

SIシナジーテクノロジー 志村社長

新たな時代へ向けて


 コロナ禍をはじめとしたいくつもの外的要因によって、昨今のビジネス環境には数多くの変化が生じてきた。今回インタビューを行った各社では、自社の状況を見極めながらその変化に柔軟に対応したさまざまな取組みを行い、進むべき道を切り開いてきた。それを可能にしたのは、経営者が持つ強い危機感に加え、有事の際に限らず常日頃から情報収集を欠かさず事業を進化させていく姿勢、そしてピンチをチャンスと捉えて突き進む前向きな行動力であった。

 コロナ禍が過ぎても、原材料価格の高騰や人材不足など取り組むべき課題は山積みで、中小企業を取り巻く環境が厳しいことに変わりはない。各社からも、募集をしても人が集まらないといった声や、専門的な技術を持った人材を求める声が上がっていた。この先も直面するであろうさまざまな危機を乗り越えていくために、中小企業には今後ますます独自性や革新性を持った取組みが求められる。ミラック光学の村松氏は「規模が小さくても、ある技術や分野に関して他社が追いつけないレベルまで突出できる会社は生き残っていける。たとえ小さな池(領域)でも、そこに悠々と泳ぐ最後の1匹の魚(会社)を目指していきたい」と語る。固有の技術やビジネスモデルを持ちながらも、時代や環境に合わせて柔軟に変化していくことで危機を乗り越えてきた中小企業は、この先も社会の中でさらなる存在感を示していくだろう。(畑山若菜/編集:野村智子)

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