多摩けいざい

たましん地域経済研究所レポート

多摩地域における都市空間構造の変化

2020年1月27日

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 最後のキーワードは「ワーク・ライフバランス」である。多摩地域に居住する女性の大学進学率(20歳人口に占める大学在学者)は、2010年には63.0%となり、それまでの過去10年間で17.4%ポイントも上昇した。それに伴って、女性の働き方も変化し、結婚・出産後も働き続けることが一般的なライフスタイルとなってきている。今では共働きの夫婦が多数派となり、かつてのような「男性が会社でがむしゃらに働き、女性は内助の功」という時代ではなくなった。子どもを抱える共働き夫婦にとって、ワーク・ライフバランス意識の高まりは必然の帰結である。

 ワーク・ライフバランスの意識変化は、都市空間の中に通勤時間の短縮という形で現れている。統計データを見ると、多摩地域における通勤時間が60分以上の長時間通勤者の割合は、明らかに減少している(図2)。ワーク・ライフバランスは、居住地選択において、世帯あたりの通勤時間を短縮するために多少地代が上昇しても通勤に有利な地を選択する傾向を強めると考えられる。

図2 多摩地域居住者の通勤時間


出所)総務省「住宅・土地統計調査」

 これら3つのキーワードを合わせてみると、2000年以降に多摩地域と都心の関係がどのように変化してきたか理解できる。都心へのプラットフォームビジネスの集中、多摩地域からの製造業の撤退、そして通勤地への近接性を重視する居住意向。これら要因間の相互作用によって、都心部への産業・人口の強力な集積のフィードバックが生じた結果、都心一極集中が加速し、多摩地域から都心への人口流出超過と所得格差の拡大が生じたと考えられる(図3)。

図3 多摩地域の23区に対する人口純流入数・所得格差


出所)総務省「市町村課税状況等の調」、東京都「人口の動き」

2040年の多摩地域に向けて


 しかし、これらの変化を悲観的に捉えても仕方ない。多摩地域に関するネガティブな統計は、人々がそれぞれに合理的な行動を採ったことによって表れたパターンだからだ。私たちが考えるべきことは、このパターンを前提とした上で、これからの将来に向けて如何に地域をデザインしていくかである。ただし、単に他の地域の付加価値を奪って多摩地域に移転する「ゼロサム」的な発想ではなく、「プラスサム」で付加価値を付け加えていかなければならない。そのために必要なことは、「地域資源の有効活用」や「地域課題の解決」である。多摩地域に眠る資産や課題を掘り起こして、価値に変えていくためにどのようなビジョンを描けるかが問われている。

 筆者は、多摩地域の特徴は「学」にあると考える。国内有数の大学・研究機関の集積、高い進学率、市民の学びへの高い意識。これらの資源を活かして、産業に付加価値を付けることが有力な方策になると考えている。

 そして、もう一つ重要なのは、それを実現させるための仕組みを作ることだ。多摩地域全体のポテンシャルは十分大きいにもかかわらず、意思決定主体が小さく分断されすぎている。特に、行政区界をまたがる広域的な課題に対応していくことが難しい。これは深刻な課題であり、多摩地域に必要な施策の実現を妨げているように思われる。

 これからさらに20年先の2040年を見据えたとき、これらの難しい課題を前に、私たちに残された時間はそれほど多くないことに気付く。私たちはこれからどのような多摩地域を創っていけるだろうか。(中西英一郎)

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