多摩けいざい

特集 多摩のうごきを知る

多摩モノレール20年の歩み

2019年7月25日

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データで見る多摩モノレール


 ここで、データからモノレールの歩みを振り返ってみましょう。まず乗車人員ですが、開業以来年々増加を続けています(図2参照)。全線開業後の2000年度と2018年度の乗車人員を比べると、80.6%もの増加が見られます。この要因について、多摩都市モノレール総務部経営企画担当課長の辻氏に伺うと、「理由は色々と考えられますが、最も大きいのは沿線の開発です。複数の大型開発が進んだことで、モノレール利用のお客様も増えました。その他、沿線の人口増加や経営努力も要因のひとつです」と言います。当研究所の調べでは、2000対2015年比で、駅半径1km圏で13.7%、1~2km圏で4.7%の人口の増加となっていることから、確かに周辺人口の伸びよりも大幅にモノレール利用者が増えています。

図2 多摩モノレール乗車人員の推移(1日あたり)

(出所)多摩都市モノレール

 次に、地価の変化についても見てみます。一般に、モノレール等の公共交通機関が整備されることで、交通利便性の上昇や商業施設等の集積が進み、周辺に住む住民は以前より多くの便益を享受できるようになります。この便益の改善効果は、周辺地域の地価上昇という形で現出すると考えられ、地価の変化を分析することによってモノレールが地域に与える影響を考察できます※1

 図3は、住宅地の1㎡あたりの地価について、モノレールがある沿線5市の平均値と、モノレールの駅半径1km・1~2km圏の平均値とを比較したグラフです。これを見ると、1993年頃までは両者にそれほど大きな差はなかったものの、その後徐々に差が開いています。2018年時点で駅半径1km圏では1㎡あたり2万7,000円程度、1~2km圏では2万4,000円程度、モノレールが存在しなかったと仮定した場合よりも地価が上昇しています。単純推計では、周辺地域合計で2兆4,600億円も地価が上昇していることになります。モノレールの総事業費が約2,400億円であったことを踏まえると、いかに地域に大きなインパクトをもたらしたかがわかります。

図3 住宅地地価(1㎡あたり)の平均値の推移

(出所)国土交通省「都道府県地価調査」より、当研究所推計

今後の展望


総務部経営企画担当課長 辻氏

 多摩都市モノレールでは、昨年中期経営計画を定め、経営の再建から軸足を移し、将来を見据えて自立と持続的成長を目指す新しいステージに進んでいくことを謳っています。 「経営が厳しかった時は、設備投資が難しかったのですが、今では少しずつ更新できるようになりました。例えば、昨年12月に立川南駅をリニューアルオープンしました。また、近々多摩センター駅もリニューアルを予定しています」と辻氏は話します。その他にも、同社では今後社員がやる気を持って働ける人事制度改革に取り組むなど、前向きな取組みが目立ちます。

 辻氏は、「これまでの20年間、公共交通機関の一つとして多摩地域とともに歩んできました。これからもその信頼を損なわないよう努力を続けていきたいと思います」と意気込みを語ります。

 箱根ヶ崎、町田方面へのモノレール延伸計画についても進展を見せる※2中、地域住民の「足」としてますます欠かせない存在となっていくモノレール。地域と共に更なる発展を目指して、多摩モノレールは走り続けます。

(中西 英一郎)


※1 このような方法で各種政策の社会的便益を推計する手法は「ヘドニック・アプローチ」と呼ばれ、事後的に政策評価を行う際に用いられます。
※2 2016年に国土交通省交通政策審議会より出された「東京圏における今後の都市鉄道のあり方について(答申)」を受けて、関係地方公共団体・鉄道事業者による連絡調整会議が立ち上がり、事業化に向けた各種調査等が進行しています。

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